(『ダブルクロス アメリカを葬った男』チャック・ジアンカーナ著から抜粋)
1952年の秋になると、ムーニー(サム・ジアンカーナ)は大統領選挙にかなりの興味を示した。
弟のチャックが「イリノイ州選出のアドレー・スティーヴンスンを応援するのか」と訊くと、ムーニーは言った。
「俺が好きなのは勝つ奴さ。アイク(アイゼンハワー)がいいね。
ほんとはアイクの副大統領候補の、ニクソンが気に入ってる。
奴は抱き込めるぜ。」
「でも、ジェイク・アーヴィ(ムーニーと親しいシカゴ選出の議員)はスティーヴンスンの支持だろ?
キーフォーヴァー降ろしに一役かったんじゃないのかい?」
チャックは不思議そうに尋ねた。
ジェイク・アーヴィは政界の実力者で、犯罪の撲滅を叫ぶエステス・キーフォーヴァー上院議員を民主党大会で大統領候補の指名から外したことで、国民の注目を集めていた。
「ああ、キーフォーヴァーには降りてもらわにゃならんかった。
だが、アーヴィだってアイクが勝つことは知ってるさ。」
チャックのぽかんとした顔を見て、ムーニーは解説にかかった。
「いいか、どっちにしろ俺たちは勝つ。(共和党と民主党の)両方に賭けてるからな。
どっちの陣営の選挙資金も援助している。
カリフォルニアにいるウチの連中は(共和党の)ニクソンの応援、アーヴィは(民主党の)スティーヴンスンを応援してる。」
結局アイクが勝ったとき、ムーニーはウィンクして言った。
「どうだ、俺の言った通りだろう」
(2018年10月28日に作成)