(『ダブルクロス アメリカを葬った男』チャック・ジアンカーナ著から抜粋)
1957年の春、チャックはムーニーとゆっくり酒を飲む機会があり、ムーニーのよもやま話に耳を傾けた。
ムーニーはキューバについて、こう説明した。
「アメリカ政府もアメリカ人投資家も、俺たち(マフィア=シンジケート)も、キューバに関しては二股をかけることにした。
バティスタ政権の転覆をもくろむ反逆分子(カストロたち)に武器・弾薬を供給しつつ、表向きはバティスタ現政権を支持している。
シンジケートとCIAが合同で国際的計略をめぐらすのは、これが初めてじゃねえ。
元FBIで現在はCIAに雇われているボブ・メイヒューが、かつてサウジアラビアとインドネシアでCIAの工作任務についた時、協力してやったことがある。
テキサス州でメイヒューが密輸を始める際も、手を貸してやった。
こうした暗黒街の協力に対する見返りとして、CIAは俺たちのハバナからアメリカへの麻薬密輸を黙認している。
これはCIAのいつもの手口で、麻薬の売り上げの10%を受け取り、それを秘密活動の軍資金にしてるんだ。
CIAのそうした不正資金は、スイス、イタリア、バハマ、パナマなどの銀行口座に蓄えられている。
キューバは緊迫してきてるから、ハバナに莫大な投資をしてきた俺たちもCIAも必死になってる。」
ムーニーはすでに、キューバのハバナにある賭場トロピカーナの責任者として、ルイス・マクウィリーを派遣していた。
マクウィリーはテキサス出身で、かつてはジャック・ルビーやフランク・フィオリーニ(別名フランク・スタージェス)の下で、アメリカ国境の南で銃や麻薬の密売にたずさわっていた男だ。
ルイス・マクウィリーはカジノ以外にも、ジョニー・ロゼリに手を貸して密輸もしていた。
ロゼリは依然としてハリウッドとラスベガスを中心に活動しているが、いまやムーニーの代理で各地を回っていた。
ムーニーは説明を続けた。
「CIAは、闇ルートで入手した武器をキューバの革命派に渡す。
この武器はシンジケートが買い付けるんだ。
バティスタ側と革命側に二股かけるための資金を、CIAは正規の予算から出すわけにもいくまい。
革命派に渡す武器は、ジミー・ホッファがティームスターズからくすねた金で買い付ける。
そうして、いったんテキサスの倉庫に寝かせてから、キューバに輸送する。
CIAの奴らが、飛行機や船を用意することになってるんだ。
ジャック・ルビーは、以前にもサントス・トラフィカンテやカルロス・マルセロと一緒に仕事をさせた事がある。
今度の作戦は、トラフィカンテが仕切ってくれるはずだ。
マクウィリーは武器をロゼリに流し、そいつをトラフィカンテの子分とCIAの工作員が革命派に渡すわけだ。」
「ひょっとするとアメリカ政府から恩給でも出るぜ」と、チャックはからかった。
(2018年11月5日に作成)