組合の乗っ取り②

(『ダブルクロス アメリカを葬った男』チャック・ジアンカーナ著から抜粋)

1937年の3月末、「ベラ・ナポリ」にムーニーとチャックは呼び出された。

店に着き、ムーニーはポール・リッカとマレー・ハンフリーズのいる席に座り、チャックは壁を背にして立った。

リッカは切り出した。

「揉め事があってな。

ムーニー、お前ならうまく処理できると思ってな。」

そしてリッカは長い葉巻に火をつけ、先を続けた。

「床屋の組合をおとなしくさせにゃならんのよ。
じいさんが2人わめき始めてな、説得せにゃならん。

店はルーミス・ストリートとテーラー・ストリートの角だ。」

ムーニーは一言も言わずに立ち上がった。

「そいつは片付いたと思って下さい」それだけ言うと、チャックに付いてこいと合図した。

車で自宅に戻る途中、ムーニーが突然言った。

「助っ人が要るだろうな。
いつもの2人に加えて、カール・トルシエッロも送り込もう。

奴め、ひどく金に困っているらしい。」

トルシエッロは、ムーニーに仕事がほしいと頼んでいた。

「俺はカールを気に入ってんだよ。あいつにチャンスをやって、様子を見よう」

自宅の戻るとムーニーは、すぐにファット・レナードに電話し、トルシエッロの所に行って仕事に加えるよう命じた。

20年後に、トルシエッロはこの時の事をチャックに語っている。

「あの頃は、金が欲しくて欲しくて。
大恐慌の最中で、テーブルの上に食いもんがありゃあ幸せって時代だったからな。」

当時の彼は、1日18時間も荷下ろしの仕事をして、週15ドルしかもらってなかった。

夜7時きっかりに、男たちがトルシエッロを迎えにきた。

無法者ジェームズ・トレッロ、狂犬デステファノ、ファット・レナードの3人で、「残忍さでは誰にも負けない」と評判の連中だ。

狂犬デステファノは、伊達にそう呼ばれるわけじゃない。
正真正銘の狂人で、いきなり狂ったように笑いだす。

デステファノはどこへ行くにもパジャマ姿で、ズボンの前も開けっ放しだ。
残虐な殺し屋で、誰もが避けて通っていた。

目的の床屋に着くと、レナードら3人は錠をかなてこでこじ開けて押し入った。

彼らは野球のバットや、真鍮のナックルや、ピストルを持っている。
それがトルシエッロの神経をぴりぴりさせた。

奥の部屋に、狂犬デステファノと無法者トレッロがバットを振り上げて突撃すると、そこには2人の老人がいた。

1人は粋な口髭のある頭が禿げかかった男で、もう1人は髪が真っ白で70に手が届こうかというところだ。

「何てことを。何が欲しいんだ」口髭が叫んだ。

そして「金ならここにある」とスチールの金庫のほうに手を振った。

「金じゃないよ」と白髪の老人は言い、「組合のことで来たのさ」と4人の闖入者と向き合った。

白髪の老人は勇敢だった。
トルシエッロは急にその場から消えたくなった。

無法者がバットを振り上げ、机に打ち下ろした。
さらにドル札や領収書を机から払い落とし、床に散乱させた。

「そうだよ、じいさん」レナードが言った。

「組合のことで来たんだ。あんたら何か文句があるって聞いたからさ。
口出しせんこったな。さもないと二度と商売できなくなるぜ。」

ファット・レナードは銃を取り出して続けた。

「さあ、どうする。俺たちに殺られたいかい。」

老人たちが返事をする前に、狂犬デステファノがバットで白髪の頭になぐりかかった。

頭頂に血潮が飛び、白髪の老人は古新聞のように床に崩おれた。

慈悲を求めて見上げる老人に、しかしバットは再び振り下ろされた。
今度は脚でぐしゃりと音がし、老人は気を失って倒れこんだ。

「やったぜ狂犬、たっぷり教えてやったな」無法者トレッロが興奮して声を上げた。

トルシエッロは気分が悪くなり、ムーニーのギャング団に仲間入りしようなんて愚かな考えだったと思った。

「死んじまうじゃないか」
もう1人の床屋が悲鳴を上げ、狂犬に跳びかかった。

しかし無法者の一撃をこめかみに受けて、ふらふらと机にもたれかかった。

「おい何ぐずぐずしてんだ。
こんちくしょうに、きつーいお勉強をさせてやるんだろ?

誰に投票したらいいか身体に覚えさせてやりな。」

レナードは言い、一歩下がって葉巻に火をつけた。

ナックルを振りかざして狂犬と無法者は、老人に襲いかかった。

老人の指が1本1本、パキッパキッと折られた。

老人はしばらく抵抗していたが、やがて意識を失った。

「くたばったか?」無法者が煙草に火をつけながら、くすくす笑って言った。

「いや、死にゃあしねえよ。殺るために来たんじゃないからな。こいつらには投票してもらわにゃ。」とレナード。

トルシエッロは、老人がやられている最中に、こっそり店の外に逃げ出していた。
耐えられなかったのだ。

「俺にはできない。どれだけ金を積まれても、できない。」

トルシエッロは心に決めた。ムーニーの世話にはなるまいと。

ムーニーは後になって、ファット・レナードから報告を受けた。

ムーニーは曖昧に同情を示し、「残念だな。カール・トルシエッロはたいした男なんだが…」と言った。

この反応に、弟のチャックは驚きを隠せなかった。

カール・トルシエッロの行動は、普通ならば腰抜けと見られ厳罰を受けるはずだ。

チャックの心中を見透かすようにムーニーが続けた。

「少なくとも邪魔だてはしなかった。
要するにこの仕事に向いてないだけだ。

そっとしておいてやれ。もしチャンスがあればもう1度機会をやろう。
今度のような仕事は受けんだろうが。」

(2018年10月5日に作成)


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