(『ダブルクロス アメリカを葬った男』チャック・ジアンカーナ著から抜粋)
1948年も秋になると、ムーニー(サム・ジアンカーナ)はもっぱら大統領選挙を話題にした。
「トーマス・デューイは勝てん。
ラッキー・ルチアーノは、自分を投獄したデューイをいまだに恨んでいる。
フランク・コステロも、デューイは物覚えが悪い上にビジネスのやり方も知らんと苛立っている。
ハリー・トルーマンは、健全な人物に見せようとたわ言を……世間の奴らは額面通りにとっている……ほざいているが、奴はカンザス・シティで俺たちとマフィアと同じ(暗黒街の)育ちだ。」
「本当か? そりゃ初耳だ」チャックは驚いた。
「カンザス・シティも、シカゴと似たり寄ったりだ。
市長はアイルランド人のトム・ペンダーガストだが、こいつは私腹を肥やしてばかりで競馬の熱狂的なファンだ。
あそこの連中はイタリア・マフィアと組み、詐欺や恐喝で稼いだ。
ペンダーガストがトルーマンを判事に引き立て、その後イタリア人の力を借りて上院に送り込んだ。
だからトルーマンは、何から何まで俺たちに借りがある。
ルーズベルトが死んでからは、トルーマンがホワイトハウスの俺たちのダチだ。」
「信じられん。教師面していて、汚い事とは無縁に思ってた。」
ムーニーがため息をついた。
「おいおい、まさかマッカーサー元帥もお国のために戦う人物だと思ってたか?
コネを使って買収しちまえば俺たちのものだ。」
1948年11月になると、ムーニーの言った通りハリー・トルーマンが大統領選挙で勝利した。
ムーニーは勝ち誇った表情で切り出した。
「トルーマンはシカゴで勝ったんだ。わずか3万票の差でだ。
その3万票のために、俺たちはコソ泥の真似もしなきゃならなかった。
もう俺たちの思い通りだ。
近々、太平洋方面でゴタゴタが起きる。賭けてもいい。
第二次大戦中に、あの辺りで騒ぎを起こせば金になると分かった。
政府関係の請負い、闇市などだ。
トルーマンは狙い通りに仕掛ける。
そうすりゃ俺たちは、未開拓のアジアのシマを切り拓く。
すでにフィリピンには手を伸ばしてるし、キューバではしこたま稼いでる。」
(2018年10月17日に作成)