シンジケートはCIAと一体で、
FBIや石油屋やカトリック教会ともつるんでいる

(『ダブルクロス アメリカを葬った男』チャック・ジアンカーナ著から抜粋)

チャックが経営するモーテル「サンダーボルト」が軌道に乗ると、ムーニーやギャング仲間がやって来ては酒を飲むようになった。
昼どきにも昼食を食べにやってきた。

その中には、今売り出し中の顔もいた。
ジョニー・マテッサ、デイヴ・ヤラス、レニー・パトリック、ブッチ・ブラーシ、ラルフ・ピアースなどである。

店は大賑わいで、チャックは嬉しく思った。

1954年3月の終わりに、ムーニーは昼食をとりに店に来たが、チャックに手ぶりでモーテルの事務所に来るよう合図した。

事務所に入ると、机に書類が山積みになっていた。

「こいつは何だ? 店の書類か?」

チャックは、ため息をついて説明した。

「事務処理が増えてきて、毎日、午前3時までこんな事をやってるのさ」

「実はその事で話がある。
こんなクズみたいなことはマネージャーにやらせとけ。
お前は昼どきに1時間ほど立ち寄るくらいでいい。

例の仕事が進んできているんだ。」

「使いに出るっていう仕事のことかい?」チャックは尋ねた。

「そうだ、うまく話を進めた。

タンパでは、サントス・トラフィカンテの息子に(麻薬密輸の話を)引き継がせた。
マイヤー・ランスキーなどコミッションのメンバーと話したんだ。

ニューオーリンズのカルロス・マルセロも協力してくれる。

そしてテキサスには、石油屋で金持ちのゲス野郎どもがいて、そいつらと取引するのさ。」

「ラスベガスの方は?」

「ベガスも片がついてる。

鍵になるのはタンパとニューオーリンズだ。
ヤクや武器の密輸入をするのに目立たなくて具合のいい場所だからな。」

「ベガスには拠点があるんだろ」とチャックは聞いた。

フラミンゴ、サンダーバード、デザート・イン、サンズといった店(カジノ)に、シンジケートが浸透していると彼は承知していた。

ムーニーは前に、「自分の取り分は年に300万ドルを超える」と打ち明けてもいた。

「そうとも。トラフィカンテやマルセロには、毎月のアガリの中から贈り物をやって機嫌をとっておくのさ。

さらにもう1人、ハワード・ヒューズという金持ちのクソ野郎がいる。

奴はゲームのやり方を心得ていて、ニクソン副大統領も自分の手から餌をもらうんだと言ってる。
軍需関係の契約に噛んでいるのさ。

奴はベガスがお気に入りで、バックギャモン好きなんだ。
奴と組んで華々しくやれそうだぜ。」

「こりゃあ、とんでもなくでかい仕事になりそうだな。
サツに嗅ぎつけられたりしないかい?」

「サツが何だってんだ。

シカゴにいるFBIのガイ・バニスターを知ってるだろうが。
ボブ・メイヒューも。

俺たちは以前から、この2人に手を貸してる。
自動車泥棒の情報を流してやったり、アカの奴らを痛めつけたりしてな。

それにハワード・ヒューズは、麻薬局の連中を知りつくしてるんだ。

ジョニー・ロゼリも、CIAのアジア部局の連中を知ってる。

CIAと俺たちは、何年もフィリピンで協力している。

シンジケートは、国内ではFBIと組み、国外ではCIAと組むことになる。」

「それで、兄貴に必要なのは信頼できる使いの者ってことか。」

ムーニーは「金になるんだ、チャック。恐ろしいほどの額の金にな。」と言って帰っていった。

その日の夜、チャックはベッドに横になったまま、ムーニーがくれたチャンスのことを考えた。

1度の仕事で、5千ドルから1万ドルになるだろう。
ニューヨークとの間を行き来している男を知っているが、その男はそれ以上の金を1回ごとに受け取っていた。

その運び屋は、ダイヤモンドや装身具の盗品を故買屋のジョージ・アンガーの所に持っていき、現金に替えてきた。

今回の取引のほうがずっと大がかりだから、収入はさらに大きいはずだ。

シンジケート、ハワード・ヒューズ、ニクソン副大統領、FBI、CIAが出てくるなんて、スパイ小説みたいな話だ。

この仕事は、命を張ることになるかもしれない。

レースのカーテンから朝日が差し込む時刻になっても、チャックはまだ寝られなかった。

次の日の午前中、ムーニーがサンダーボルトのオフィスに現れて言った言葉に、チャックは虚を突かれた。

「例の仕事は、別の男にやらせることにした」

チャックの心は沈んだ。
ムーニーは荷が重すぎると判断したに違いなかった。

チャックは失望を表に出すまいと努めながら言った。

「そりゃ良かった。他の奴がうまくやるだろう。
で、誰にしたんだい?」

「キャッシュ神父だ。
神父が金の運び屋だなんて、誰も考えやしないからな。」

「神父だって? 神父さんにはでかすぎる仕事じゃないか?」

「チャック、お前わかっちゃいねえな。
教会だって、俺たちと同じパイに指を突っ込んでるんだぜ。
フィリピン、メキシコなどに。

いいか、アメリカ政府は俺たちに手を貸し、俺たちは政府に手を貸しているんだ。」

ムーニーはズボンのポケットに手を入れ、小さなコインを取り出してチャックに見せた。

「古代ローマのコインさ、チャック。

いいか、これはローマの神の1人が彫られているが、その神は顔が2つある。

それが俺たちだ。
シンジケートとCIAは、同じコインの表と裏だ。

政府には大っぴらにやれない事がある。だが俺たちならやれる。
銃の横流し、殺し、ゆすり、などだ。

同じ目的(金儲け)で一緒に動いているんだ。
ただ見かけが違うだけさ。

今はアジア、イラン、ラテンアメリカで一緒に活動してる。
そのうちに、あらゆる事で提携するだろうよ。

ニクソン副大統領の後ろには、ハワード・ヒューズやカリフォルニアの連中、テキサスの石油屋どもが付いている。

マレー・ハンフリーズが言うには、荒っぽい裏の仕事が必要になったら、ニクソンは俺たちに連絡してくるとさ。」

「本当かい?」

「本当さ。今後はいいか、公務員のサム・ジアンカーナだぞ。」
ムーニーは愉快そうにニヤッと笑った。

(2018年10月24日に作成)


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