タイトル満洲国の阿片ビジネス、熱河作戦
岡田芳政、阪田誠盛

(『阿片王 満州の夜と霧』佐野眞一著から抜粋)

中国の東北部にある、奉天省(その後に遼寧省と改称)、吉林省、黒竜江省の「東3省」を武力で奪った関東軍(日本軍)は、1932年に満洲国を建国した。

1933年になると、関東軍は遼寧省に隣接する「熱河省」へ侵攻した。

この「熱河作戦」は、関東軍の阿片獲得の作戦だったとも言える。

張学良らの財源である熱河の阿片を奪取し、これを満洲国の財源にすることが、熱河侵攻の隠された目的だった。

東3省では、阿片の原料であるケシの果実はあまり採れない。

これに対し、熱河で採れる阿片は、甘味があり香りも良いと評判だった。

満洲国政府に勤務し、上海の特務部に嘱託で勤めたこともある花野吉平は、『歴史の証言 満州に生きて』の中で、こう述べている。

「関東軍の板垣征四郎・高級参謀は、特務機関長の時代から中国人と阿片工作をしており、熱河作戦の強行をした者だ。

熱河の占領は、阿片を関東軍が支配することにあった。」

小磯国昭・関東軍参謀長は、熱河への出撃にあたり、「ケシは熱河省で唯一の財源なので、特に留意して耕作地を荒らさぬよう配慮を望む」と、特別の訓示をした。

満洲国・財政部の会計部長だった山梨武夫は、『満洲建国側面史』で次の回想をしている。

「田中恭(満洲国・財政部の理事官)あたりと協力して、熱河で飛行機の上からビラを撒いた事がある。

『阿片の専売制度が出来たから、大いに利用しろ。熱河ではケシ栽培を公認するから作れ』とのビラを撒いた。

その頃、ジュネーブ(国際連盟)では阿片万国委員会が開かれて、英米は『日本は阿片で満洲人を麻痺させようとしている』と言っていた。

それを気に病んだのではないが、阿片の生産地を限定する必要があるので、熱河省に作らせることにした訳だ。

ところがビラが風のせいで、奉天省に舞い落ちた。
それを拾った農民は阿片を栽培した。

これを取り締まったところ、農民は『ビラに阿片を作れと書いてある』と抗議し、逆襲されて参ったことがあった。」

関東軍が手に入れた熱河省の阿片は、大半は近くにある天津に運ばれて密売された。

この密売を関東軍から任されたのが、阪田誠盛である。

阪田誠盛は、満洲国の阿片ビジネスを語る上で欠かせない人だ。

阪田誠盛に阿片をさばくよう命じたのは、元陸軍大佐の岡田芳政だ。

岡田芳政は、偽札工作などで知られる『松機関』の長である。

岡田芳政は、『続・現代史資料(12)阿片問題』付録の月報で、次のように述べている。

「私は天津における阿片マーケットの(日中の)争奪戦が、日中問題で重大であると判断し、熱河省の承徳から古北口ー北京の間に自動車運輸会社を経営している阪田誠盛を訪ねた。

阪田は北京大学で交通学を専攻した満鉄マンで、関東軍の熱河作戦に協力した後、自動車会社をやっていた。

彼と私は1927年に知り合ったが、肝胆相照らす仲となり、北支那の阿片の裏話まで聞けた。」

日本の関東軍が熱河の阿片に執心したのは、敵対する蔣介石(国民党政権)の阿片密売ルートを遮断する目的もあった。

当時の蔣介石は、雲南省や綏遠省の阿片を支配していた。

この2省で採れる阿片は、辛味が強く香気も乏しくて熱河産より人気がなかった。

蔣介石は天津の阿片マーケットを、雲南産や綏遠産で支配しようとしていたが、上質の熱河産ならば勝てると関東軍は考えたのだ。

阪田誠盛は、熱河作戦では兵站輸送を命じられ、「阪田組」を設立して請け負った。

その論功行賞で熱河の阿片利権を得た誠盛は、170人を擁するヘロイン工場を稼働させた。

さらにアメリカ製の大型トラックを買って、熱河省都の承徳から天津までを1日1往復するトラック便で阿片を輸送した。

その後に阪田誠盛は、やはり岡田芳政の命令で、偽札を国民党の支配地でバラ撒く、経済攪乱の工作をした。

その過程で、青幇(中国の暴力団)の大ボスである杜月笙に近づくことに成功した。

この偽札工作は、失敗に終わった。

阪田誠盛は、上海のフランス租界にある大豪邸を根城にして、贅沢三昧の暮らしをした。

一説には、終戦時に50億円の現金を持っていたという。

上海憲兵隊・特高課長だった林秀澄は、「阪田は軍部に取り付いた寄生虫」と評する。

林秀澄によると、阪田誠盛はTNT火薬の3倍の破壊力がある爆弾の製造を命じられて、日本軍が占領する直前の香港九龍の攪乱工作を任された。

阪田誠盛は発電所を破壊したと報告したが、「その写真を見ても、どこが壊れているのか分からなかった。そういう虫がたかっておったわけです。」と林秀澄は言う。

(2024年2月17日に作成)


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