タイトル財政赤字の真実
二宮厚美さんの解説

(ユーチューブの動画から要約)

これから書くのは、ユーチューブにアップされている二宮厚美さんの話を、私が要約したものです。

彼の解説は、大変に分かり易く、的確なものだと思います。

二宮さんは「アベノミクスについて」も解説しており、それは『日本の問題の勉強 経済・輸出入』のページに書きました。

この話は、その続きになっています。
そっちを先に見てからの方が、より分かるかもしれません。

良かったら、そちらの記事もどうぞ。

○ 日本の財政赤字の真実 二宮厚美さんの解説

財政が悪化すれば、そのツケは「社会保障費の抑制」として返ってきます。

日本では財政の赤字が続いてますが、これは収入と支出の間に乖離があるからです。

これは財政についての原則なのですが、財政は『歳入(収入)よりも前に、支出を考えなければならない』のです。

公共財政には、『量出制入の原則(必要な支出を決めてから、収入を決めること)』があります。

「入ってくる収入を見てから、支出を考える」という、企業や家計に当てはまる考え方は、公共財政には適用してはなりません。

災害の復旧・教育・医療などの事業は、やらないと社会が保てなくなります。

そういう事をどうやるかを決めてから(支出を決めてから)、収入(税収)を考えるものなのです。

日本の支出膨張の主因は、1990年代は『公共事業』でした。

これには、アメリカとの約束もあって、630兆円も行いました。

(この630兆円の公共事業については、日本が大借金を背負ったのは、アメリカが公共事業を強要したからを見ると分かります)

かつて小渕首相が、「私は世界一の借金王だ」と言ったくらいに、日本は建設国債を発行して公共事業にお金をつぎ込みました。

今世紀に入ると(小泉政権が始まると)、公共事業も削減の対象になり、状況は変わりました。

今世紀に入ってからの支出膨張は、『社会保障費の増加』が一因です。

しかし、自民党を中心にした構造改革により、社会保障費は削られてきており、増加の幅は抑えられています。

削ってきても増加してきたのは、必要な支出だったからです。

ですから『社会保障費の増加』は、支出膨張の主因ではありません。

何が、今世紀の財政赤字を起こしたのか。

それは、『税収の低下』です。

日本の税収がピークだったのは、1990年代の初頭です。

国税は、当時に比べると今は10兆円も落ちています。

近年の税収は、「一貫して伸びない」という構造になっています。

これが、財政赤字の最大の要因です。

私は、「増税は不可避だ」と思っています。

「増税なしに財政の再建ができる」という意見は、単なるスローガンに過ぎません。

なぜそう言えるかといえば、『税収が少なすぎる』からです。

税収が少なくなった理由は、大きく分けると2つです。

1つ目は、『課税ベースになる国民の所得が、伸びていないこと』です。

なぜ伸びていないかは、『アベノミクスについて』ですでに説明したとおりですが、新自由主義的な政策により、格差が生まれている(貧困が生まれている)からです。

貧困層が増えると、内需が不振に陥ってしまいます。

こうした問題を、アメリカはバブルで(サブプライム・ローンで)解決しようとし、失敗しました。

日本の企業たちは、国内の需要が盛り上がらないので、外需依存で儲ける道に走りました。

ただし、その利益は、国内の労働者には還元されていません。
労働者の賃金は、下がる一方です。

こうした構造が推進されたために、国民の所得は増えず、税収も増えないのです。

だから、これを解決しようと思ったら、新自由主義的な動きを変えないといけません。

2つ目の理由は、『新自由主義的な税制改革が、税制そのものを空洞化させたから』です。

新自由主義の税制改革は、「経済が成長しても、税収が増えない(税金をとれない)という構造に、変えてしまった」のです。

これを何時から始めたかというと、『消費税を導入した時から』です。

消費税を基幹(中心)として位置づけて、他の税を中心から外してしまうという流れが、1990年代に始まりました。
(消費税が始まったのは89年です)

消費税の導入をきっかけにして、税制の体系が歪められてしまいました。

なぜこんな事が起きたかというと、「グローバル時代には、今までとは違う税の仕組みにしなければならない」という理屈が、出発点です。

グローバル化が進行すると、『企業や富裕層からは、税金が取れなくなる』のです。

企業や富裕層のお金は、「キャピタル・フライト」と言いますが、逃げ足が速いです。

彼らのお金は、世界中で安い税金の地域(タックスヘイブン)を求めて、逃げ回ってしまいます。
つまり、税金をかける事が難しくなります。

グローバル化された世界では、税の中心は消費税に置かざるを得ない。

なぜかと言えば、消費税はその場で取れるので、脱税がしづらいからです。
暮らしの中にある税金は、逃げる事が出来ない。

こうした議論(考え方)が、現在の経済学では圧倒的に支配的で、税制改革の主流なのです。

こういう見方(税制の在り方)が、現在の主流になっています。

所得税・法人税などの逃げやすい(外国に利益を移動して回避できる)税は、減税せざるを得ないのが、現状です。

これが、税制のゆがみを作っているのです。

法人税や、株式などのキャピタルゲイン(配当)への課税。
これらは逃げられやすいので、日本ではどんどん下がっています。

「その代わりに消費税を上げるんだ」というのが、今の流れです。

所得税もあまり高くすると、最近にフランスで起きているように、高額所得層が外国に逃げてしまう(国籍を移してしまう)可能性がでます。

そのために、最高税率を下げざるを得なくなっています。

しかし最高税率を下げれば、富裕層から税金を取れなくなるし、企業がぼろ儲けをして莫大な内部留保を溜め込んでも、そこに手を付けられなくなります。

要するに、近年の税制改革では、税金をたっぷり取れる富裕層や大企業に向けた税を、安くしてしまったのです。

構造改革流(新自由主義流)の政治・経済は、発展すればするほど、経済が成長しても税収は上がらなくなります。

1990年代から比べれば、日本の経済規模はデフレ不況だといっても、はるかに大きくなっています。

それなのに、なぜ90年代ほどの税収を上げられないのか。

それは、『税金を取らない仕組みに変えてしまった』からです。

ですから、『税制改革そのものが、税収の落ち込みを招いた』のです。

だから、財政再建をするには、今までの税制改革とは逆転しなければいけません。

話をまとめると、税制改革を逆転した上で増税をしないと、財政再建は出来ません。

国民全体の所得を上げる政策をしながら、税金を払う力のある富裕層や法人から税金を取れる仕組みに変えていく必要があります。

政治の場では、「事業仕分けをすれば、財政再建ができる」とか、みんなの党の様に「国家公務員の賃金を削減すれば、増税しなくていい」といった意見があります。

僕は、そういうのはデマだと思う。

今の日本の財政は、どこかの予算を見直したくらいで再建できるほど、生易しいものではありません。

税制を歪めたこれまでの政治の責任を問うかたちで、消費税ではない本来の税制に戻した上で、税収を上げなければなりません。

ここに国民の目を向けていかないと、今までと同じ過ちが繰り返されます。

現在は、大企業などの「法人税を下げろ」の大合唱に脅かされて、「法人税の引き下げは仕方ないのだ」と思っている人が一般的です。

しかし、大企業自身が言っているように、高い税金だったら逃げるわけではないのです。

逆に言えば、安い税金にしたら逃げないかというと、彼らは逃げるんですよ。

その国に企業が進出するかどうかは、税率よりもまず『需要(市場があるか)』なのです。

例えば中国に進出する企業は、「中国なら商品を売れそうだ」と思うから、ユニクロみたいに進出するのです。

実際には、大企業が日本から出て行っているのは、日本の税金が高いからではありません。

さらに言えば、もし法人税を上げて逃げる企業がいても、本社は日本にあるので、本社に還流してきた所得に対しては高い税率をかけられます。

だから、法人税をドーンと上げてしまえばいいのです。

ヨーロッパでは消費税が高いですが、日本とユーロ圏は、性格が異なります。

ユーロ圏では、ユーロ全体が1つの国・市場になっているので、1つの国だけが法人税などを上げるのは難しい。

「日本で法人税を上げると、トヨタなどは本社を中国などに移す」という意見があります。

しかしこれは、絶対にありません。

なぜかと言うと、グローバル企業になればなるほど、『母国の力』が必要になるからです。

外国で不当な扱いを受けた時に、その企業を守ってくれるのは母国です。

しばらく前に、アルジェリアで人質事件が起きましたね。

この事件は、被害者が日本企業の社員でなければ、日本政府も日本国民も責任・関心を持たなかったでしょう。

日本企業の社員であるから、問題視されます。

どこかの企業が「無国籍の企業」になれば、どの国も守ってくれなくなります。

だから、本国から完全に逃げ出す事は出来ないのです。

これを踏まえた上で、企業にはもっと高い税率をかける必要があります。

もし完全に逃げる企業があるならば、私は「どうぞお逃げなさい、結構です」と言えばいいと思います。

トヨタが逃げるならば、「そんな愛国心の無い企業は知らんわ!」と言って、国民はトヨタの不買運動をすればいい。

この事になぜ日本人が気付かないかといえば、『日本企業の労働組合が弱いから』です。

今、フランスやベルギーでは、ミタル社やルノー社が工場を外国に移そうとして、労働組合が反対して経営に介入しています。

労働者たちが、「自分たちの働く工場を外国に移転するな」と言い、市民もそれを応援しています。
だから、政府も介入しました。

そういう事が、日本では無いのです。

企業が外国に逃げようとした時には、まず企業内部の労働組合がしっかりと反対をして、経営に介入しなければいけません。

ドイツやフランスなどの労働組合が強い国では、ここが組合の活躍の場になっています。

これが無いから、日本では経営者たちに脅されてしまうのです。

私はこの問題は、日本の労働運動の課題だと思っています。

○村本尚立のコメント

最近は、消費税を上げる(消費税で税収をまかなう)のが、トレンドになっています。

私は、その理由がずっと分からなかったのですが、この話を聞いて、初めてきちんと理解できました。

要するに、世界的に脱税が横行しているので、それを補うためなのですね。

それならば、しなければならない事は、消費税を上げる事ではなく、きちんと税を納めるような仕組みを世界規模で作ることです。

これについては、近々に『私の提案』のページに、私のアイディアをアップしようと思います。

(※『世界的な脱税を無くすために、世界全体で所得税と法人税を統一しよう』とのタイトルでアップしました)

最後では「労働組合をもっと活性化する必要がある」と言っていますが、私もそう思います。

最近の若い人は、労働組合を「古い」とか「効果がない」とか考えていますが、あまりにも無知です。

労働者の権利を守ったり、労働条件を改善するためには、組合の力が必要ですよ。

労働組合の側にも、年配の人ばかりで若い人が参加しづらいとか、きちんと労働者の声に耳を傾けていないという問題があります。

私が思うに、若い人たちは『新しく組合を立ち上げる』ことを、もっとしていくと良いと思います。

(2013年8月30日~9月3日に作成)


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